祈りをささげに行きました。
しかしそのための場所がなかなかみつかりません。前にもそこへは訪れましたが、私の持っている地図にはあるのですが標識が見つからずとうとうその場所にはたどりつけていなかったのです。今回はちゃんと名前も調べて見当はついていました。しかしどうしても納得の行くその場所にたどりつけません。しかたがないので低い石垣の上に腰掛けてひなたぼっこしているおじいさんに聞くと、あそこだよと指さしてくれました。でもそこはただの丘の斜面の草むらで、目印のようなものも何もありません。「それであっちのどこにあるの?」と尋ねても同じように指差すだけ。 私の言い方が悪いのかと、最初の説明をくり返すと、イライラしたように塀から飛び下り「だからあそこらいったいなんだって!」と今度は身体全体で草むらを指差して怒って行ってしまいました。それでもなにか目印のようなものとかなにかあるんじゃないかとあたりをぐるぐる歩き回りました。やはりここら全体がその場所と思うほかないんだと納得しかけた時でした。
なにかがすっと手から離れました。
指輪を落としたのです。すぐ足元に落としたのですが、なかなかみつかりません。それはまるでお供物のように、あおあおとした草むらの中にすいこまれていってしまいました。
ルルドで買った蒼い石の指輪でした。
ルルドでその指輪を見つけた時、今まで探していた「欲しかった指輪」そのものに出会ったような気がしたものでした。二度と来る事はないかもしれないルルドの地で出会った、ずっと探していた欲しかった指輪。必ず買わねばならない大切なもののように思えてすぐ買い求め、お守りのように感じていました。
そんなふうに運命的な指輪でしたので、お供物なのかもしれないと何度も諦めようとは思ったのですが、お守りを手放すようで不安でもあり諦めきれず探し続けました。
がさがさと草むらをかき回していると右手の指先に激しい痛みが走り、赤くはれてひりひりと痺れました。まるでお供物をとりもどそうとする悪いやつへの罰の様でした。手が痛いのでかき回すのはやめて、今度は目を皿のようにして草むらの草の茎一本一本をつぶさに観察しましたがみつかりません。
それでもあきらめきれずに立ち尽くしていると、実は今あらわれたんじゃないかと思うほどに突然、蒼い指輪が眼に飛び込んできました。
すごくほっとしました。お供物かもしれないので取りかえしてはいけないのではないかと少し迷いましたが、お守りのようにも感じられ、やはり手放せませんでした。指にはめる迄は、また消えてなくなってしまうのではないかと心配でひどく緊張して拾い上げました。
自分は大きな間違いを犯したのではないかと言う気持ちと、困難を乗り越えた後の安堵のような気持ちが入り交じった状態でその地を後にしました。
祈りは、とどきませんでした。
それはわたしがあの蒼い指輪を持ち帰ってしまったせいのような気がして、いまでも謝罪のような責任のような気持ちでいっぱいです。