「フィリピンアートみちくさ案内マニラ編」発行のお知らせ

春の兆しが感じられつつも、 風が冷たい日がつづきますが、いかがお過ごしでしょうか。

このたび、マニラのアートスポットを紹介するガイドブック「フィリピンアートみちくさ案内マニラ編」を上梓させていただく運びとなりました。

この出版計画は、フリーでアートマネジメントの活動をされている中西美穂さんの引き合わせで、フィリピンのアートを見つめ続けるマニラ在住の長い山縣量子さんと、「民族衣装を着たマリア像」を調査研究されている古沢ゆりあさんと私の三人が出会い、誕生しました。

マニラ在住の山縣さんによれば、マニラにはギャラリーやミュージアムが沢山ありますが、それらをまとめたガイドブックが英語版ですら存在しないのだそうです。今までにアート関係者などが出版を試みましたが、未だ実現していないとのこと。「アートガイドがないなら、つくってしまおう!一番のりなら意義も大きい!」という盛り上がりから、なんと世界初(?)とも言えそうなマニラのアートガイドを無謀にも誕生させたのでした。

しかし、今まで存在しなかったのは理由あってのこと。この計画もさまざまな困難に直面しました。資金問題が最大の困難でしたが、素人ゆえに利益を度外視。知恵も資金も労働力もすべて出し合って、出し切って、すべて自分たちで作る自費出版という形で、なんとか乗り越えました。

自費出版に決めて、良かったこともありました。当初より「フィリピンは英語圏でもあるので、日本語が読めない人にも広く利用できるガイドでありたい」と、日英のバイリンガルを考えていました。英語訳をつければ、フィリピン人だけでなく、フィリピンアートに興味のある外国人にも利用できるものになるからです。しかし、通常の出版物ではバイリンガルは難しく、もしも通常の出版社からの発行であったら、バイリンガルには出来なかったでしょう。 翻訳をはじめ、編集やデザインには大変なお金がかかります。スタッフにはかなりのボランティア精神を強いることになってしまいましたが、「世界初(?)」の意義により、暖かいご理解がいただけました。

という訳で、私は編集からデザイン、データ入稿、Web制作まで担当させていただくという未経験分野への大チャレンジとなりました。私にとりまして、五年間のマニラ滞在のまとめでもあります。
夫のマニラ赴任により始まったフィリピン生活は、冒頭から大きく体調を崩す意外な展開により、週末の買出し以外はほとんど外出できないという状態で終始しました。マニラを知り尽くしたというよりは、限られた場所だけのフィリピン体験でした。それでも、大変おおきな経験でした。ヨーロッパでも感じましたが、アート作品は、それが生まれた土地の歴史や文化、風景や空気と大きく関わりあっているのだな、と強く感じたのです。観る者がただ感じればそれで良い、というのが私のアート作品に対する信条ではあるのですが、やはり作品が生まれた土地の歴史や文化、風景や空気を知ると、さらに味わい深いものになるのだという実感です。

今回のガイドブックでは、ギャラリストや作品、作家などの個別の紹介だけではなく、フィリピンのアートの生まれる背景となる、フィリピンの文化や歴史が醸し出す面白さ、空気のようなものが紹介できたらと考え、直接にはアートと関係なさそうな、余計な話を「みちくさメモ」などの形で差し挟むようにしました。マニラは暗いイメージを持たれがちな街ですが、単なるギャラリーの宣伝集ではなく、アートに興味がない人でも、土地に興味を持って街歩きしてみたくなるようなガイドを目指したつもりです。

素人仕事ではありますが、熱意ある素人三人組の力作であります。どうぞ、ご笑読ください。

また、自費出版とはいえ、マニラや美術に興味がある方にもない方にも広く手にとっていただき、フィリピンの文化という異文化に敬意と関心をもっていただけたらと思っております。ご興味がありそうな方や、販売していただけそうな方に、ご紹介いただけましたら幸いです。

まだ雪の日もあるようです。暖かくしてお過ごしください。

2013年2月14日
さいとううらら